新 手仕事ニッポン3

蒔絵(まきえ)のパールピアス (東京都・世田谷区)

 指でそっとなぞると、淡水パールの表面がわずかに隆起しているのがわかる。きらびやかすぎず、落ち着いた金色の文様は、「高蒔絵」という技法で描かれている。先に漆で文様を描いて表面を盛り上げ、その上から金粉を蒔(ま)きつけて定着させる。日本独自の漆工芸技法のひとつだ。

 蒔絵はふつう、漆塗りの器や箱にほどこされるが、この 麻の葉と鱗(うろこ)文様は、パールの上に直(じか)に描かれている。漆工芸には、漆地に貝殻片をはめ込む螺鈿(らでん)という技法もあるけれど、まるでそれを逆さまにしたような発想。とても自由で軽やかだ。 

 蒔絵の技術は、奈良時代にはじまって、江戸時代に大成した。先日訪ねた博物館では、武士や町人が、こぞって職人につくらせた蒔絵印籠がずらりと鎮座しているのを見つけて、その美しさにため息がこぼれた。印籠は薬入れ。しかし、たかが小間物にあらず。梅に鶯(うぐいす)、藤の花。金魚、曳(ひ)き船、駿馬(しゅんめ)に瓢箪(ひょうたん)と、手のひらにのる世界に、季節や風物や家柄や嗜好(しこう)がとじ込められている。「これが目に入らぬか」と、言ったかどうかは別として、当時、人々は自慢の品を腰にぶらさげ街を闊歩(かっぽ)し、おしゃれを謳歌(おうか)していたに違いない。 

 ピアスを耳にあてる。さりげなく際立たせるために、長い髪はきゅっと一つに結びたくなる。「これが目に入らぬか」とは言わないが、それ素敵ね、と言われたい。おしゃれの醍醐味(だいごみ)は時代を経ても永遠に変わらない。

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「蒔絵のパールピアス」 奈良時代に発達した蒔絵は、器ものなどの表面に漆で文様を描き、金や銀、色粉を蒔きつける日本独自の伝統技術。世界が憧れるジャパニーズジュエリーをつくりたいと話す「KARAFURU」の代表・黒田 幸さんがデザインとディレクションを手がけ、京都の職人とやりとりを重ねつくり上げた。写真の麻の葉、鱗文様のほか菊・業平菱(なりひらびし)・花格子の5種類、各2万3760円(片耳無地タイプ)。イヤリングタイプもあり。「KARAFURU」http://www.karafuru.jp/

 

文、セレクト=つるやももこ 撮影=尾嶝 太

つるや・ももこ 1975年生まれ。女子美術大学デザイン学科卒。旅・道具・暮らしと人をテーマに執筆。単行本取材のため福岡へ通うことに。行きは飛行機でびゅーん、帰りは陸路で寄り道国内旅行。まずは京都一人旅を満喫してきました。